「黒色紅色(こくしょくこうしょく)

黒色・紅色
振動する二本の線
黒い線・紅い線
君はそれにさわってはいけない
微弱に振動する線
生ぬるい電磁波を発する線
その振動の少々で
どろりと溶けるわが腕よ
どろりと溶けるわが胸よ
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黒色・紅色
あの日見たのはその二色
後ろ向きに倒れながら死にゆく私
まだ生きている
しかしそれは羽ばたく虫より小さく
倒れていく
ト音記号を描くかのように
無残に
ただただ
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黒色・紅色
流水の中に光っているのは機械のかけら
「時間」から忘れられた鉄くずの悲しさは
ついに岩の上に留まって動くことはない
冷たい水が流れていくばかり
雪解け水が
雪解け水が
ああ
どんどん
氷となって

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追いやられたヴィデオテープ
ステゴサウルスの発掘の利益
光の成分
光の成分・商品化される原子
倒壊する国家
溶解する理想
仇花は氷の中に、そしてまた溶け出して
巨大な港のコンクリートの間に挟まっている私
運ばれるコンテナ
運ばれるコンテナ
それを見ながら吼える私

時間の中で
そぎとられ
間違って付けられて
けれど、もうどうしようもなく
ただ残っているのは
その不吉な二色のみ
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黒色・紅色
彼の死に我が死を見る
あれらの死に我が死を見る
倒れるときには誇りもなく
混迷と
鋭すぎる空気があるだけ
両目に映っているのは
黒色と紅色
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(2007年作)

【解題】
「黒色紅色」は、このホームページにある詩のなかで、かなり古い作品です。
つまりレッズ・エララ神話体系のなかでも、もっとも根幹に位置する作品といえます。
一片の希望も幸福もない詩です。
この詩は、希望とか幸福を謳う詩ではありません。
ただ、
ただ、ある種の絶望、悪夢を……
言わば、セリゼ・ユーイルトット的な悪夢。
彼女自身の悪夢というか。そんな抽象的な詩です。


これが、レッズ・エララの極点のひとつです。


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